老後資金が足りるのか。住宅を買っても大丈夫なのか。負債を返しながら、NISAを続けてよいのか。
これらの疑問は、頭の中だけで考えていると、なかなか答えが出ません。将来の収入も、物価も、運用成績も確定していないからです。
そこで役に立つのが、家計のキャッシュフロー表です。
キャッシュフロー表は、将来の収入、支出、年間収支、金融資産残高を年ごとに並べたものです。
私は40代が見え始めたアラフォーの会社員です。FP3級・簿記3級を取得し、現在もFP2級を含め、お金について学び続けています。
一方で、数百万円単位の負債を返しながら、家族の生活と老後資金づくりを両立している途中でもあります。
そんな立場だからこそ、キャッシュフロー表を「余裕のある人が作る立派な計画書」とは考えていません。むしろ、お金に余裕がないときほど、数年後に何が起きるかを一度見ておく。そのための表だと思っています。
先に結論:正確な予言ではなく家計の異変を見つける表
キャッシュフロー表を作る目的は、30年後の資産額を1円単位で当てることではありません。
- 大きな支出が重なる時期を見つける
- 金融資産が減り始める年を確認する
- 条件を変えた場合の家計への影響を比較する
将来の数字には誤差があります。それでも、「この条件では50代後半から資産が減り続ける」と分かれば、積立額、住宅予算、退職時期などを見直せます。
キャッシュフロー表は未来を当てる表ではなく、未来の家計に潜む無理を早めに見つける表です。
キャッシュフロー表とは
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 年 | 西暦または経過年 |
| 家族の年齢 | 本人・配偶者・子どもなど |
| ライフイベント | 住宅購入、進学、退職、車の買い替えなど |
| 収入 | 給与、賞与、年金、退職金など |
| 支出 | 生活費、住居費、教育費、保険料など |
| 年間収支 | 収入-支出 |
| 金融資産残高 | 前年残高+年間収支など |
年末の金融資産残高=前年末の金融資産残高+その年の年間収支
運用益や預金利息を反映させる方法もありますが、最初は運用率を0%にして、収入と支出だけで家計が維持できるかを確認する方が分かりやすいでしょう。
家計簿との違い
| 比較項目 | 家計簿 | キャッシュフロー表 |
|---|---|---|
| 主に見る期間 | 過去・現在 | 現在から将来 |
| 単位 | 日・月 | 年 |
| 主な目的 | 支出内容を確認する | 将来の家計を予測する |
| 分かること | 何に使ったか | いつ資産が不足するか |
| 更新頻度 | 毎日・毎月 | 年1回や計画変更時 |
現在は借入返済によって余裕がなくても、完済後に年間支出が減るなら、将来の収支は改善します。キャッシュフロー表では、この時間の変化を確認できます。
作成前に用意する四つの表
現在の貯蓄力を確認
資産・負債・純資産を確認
将来の予定と費用を整理
将来の収支と残高を確認
1.現在の年間収支表
1年間の手取り収入と支出を整理します。年間の手取り収入から年間支出を差し引くと、現在の年間収支が分かります。
2.家計のバランスシート
現在の資産と負債を整理します。
年間収支が黒字でも、負債が大きければ、家計全体が安全とは限りません。
3.ライフイベント表
| 時期 | ライフイベント | 費用の目安 |
|---|---|---|
| 3年後 | 車の買い替え | 250万円 |
| 6年後 | 住宅購入 | 500万円 |
| 10年後 | リフォーム | 150万円 |
| 15年後 | 車の買い替え | 300万円 |
金額は確定していなくても構いません。いま分かっている範囲で記入します。
4.キャッシュフロー表
年間収支表とライフイベント表の数字を年ごとに並べます。
額面年収ではなく可処分所得を記入する
キャッシュフロー表の収入欄には、原則として自由に使える手取り額を記入します。これを可処分所得といいます。
生命保険料や住宅ローン返済額などは、この計算では差し引きません。これらは家計の支出として別に記入します。
会社員は、源泉徴収票、給与明細、賞与明細、住民税決定通知書などから確認できます。
将来額は変動率を使って計算する
現在の年間生活費が300万円で、物価上昇率を年2%と仮定すると、10年後は約365万7,000円です。
| 経過年数 | 年2%で増えた年間生活費 |
|---|---|
| 現在 | 300万円 |
| 5年後 | 約331万円 |
| 10年後 | 約366万円 |
| 20年後 | 約446万円 |
| 30年後 | 約543万円 |
物価が毎年必ず2%上がるという意味ではありません。「変わらない場合」と「年2%上がる場合」を比較するための仮定です。
年間収支と金融資産残高の計算方法
年間の可処分所得が700万円、支出が620万円なら、年間収支は80万円です。年初の金融資産が500万円なら、年末残高は580万円になります。
| 年 | 年初残高 | 年間収支 | 年末残高 |
|---|---|---|---|
| 1年目 | 500万円 | +80万円 | 580万円 |
| 2年目 | 580万円 | ▲50万円 | 530万円 |
| 3年目 | 530万円 | +90万円 | 620万円 |
赤字の年があるだけで、直ちに問題とは限りません。見るべきなのは、その後の収支で金融資産が回復するかどうかです。
40代会社員のキャッシュフロー表を作ってみる
モデル世帯
| 項目 | 設定 |
|---|---|
| 本人 | 42歳・会社員 |
| 配偶者 | 40歳・会社員 |
| 現在の金融資産 | 500万円 |
| 世帯の可処分所得 | 年間750万円 |
| 現在の年間支出 | 710万円 |
| 現在の年間収支 | +40万円 |
| 借入完済予定 | 3年後 |
| 車の買い替え | 4年後・250万円 |
| 住宅購入の頭金 | 6年後・500万円 |
| 年 | 年齢 | 主な出来事 | 可処分所得 | 支出 | 年間収支 | 金融資産残高 |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 現在 | 42歳 | ― | 750万円 | 710万円 | +40万円 | 540万円 |
| 1年後 | 43歳 | ― | 758万円 | 717万円 | +41万円 | 581万円 |
| 2年後 | 44歳 | ― | 765万円 | 724万円 | +41万円 | 622万円 |
| 3年後 | 45歳 | 借入完済 | 773万円 | 635万円 | +138万円 | 760万円 |
| 4年後 | 46歳 | 車購入 | 781万円 | 892万円 | ▲111万円 | 649万円 |
| 5年後 | 47歳 | ― | 789万円 | 647万円 | +142万円 | 791万円 |
| 6年後 | 48歳 | 住宅購入 | 797万円 | 1,155万円 | ▲358万円 | 433万円 |
※仕組みを説明するための簡易試算です。税金、運用益、住宅購入後の維持費などは簡略化しています。
年間収支が改善
一時的に資産減少
資産が大きく減少
住宅購入後も十分な生活防衛資金が残るかを確認する必要があります。
借入返済はどう反映するか
| 表 | 記入内容 |
|---|---|
| キャッシュフロー表 | 毎年の元金返済と利息支払い |
| バランスシート | 作成時点の借入残高 |
キャッシュフロー表では「毎年いくら出ていくか」を見ます。バランスシートでは「現在いくら返す義務が残っているか」を見ます。
負債を返している途中では、完済年も必ず入れます。返済が終わった後も同じ金額の支出を続ける設定にすると、将来の収支を必要以上に悪く見積もることになります。
NISAや企業型DCをどう扱うか
| 資産 | キャッシュフロー表での扱い |
|---|---|
| 普通預金・定期預金 | 生活や大きな支出に使える資産 |
| NISA | 売却できるが価格変動がある資産 |
| 課税口座の投資信託・株式 | 売却可能。税金や損益を考慮 |
| 企業型DC・iDeCo | 原則として60歳まで自由に使えない |
| 退職金 | 受取予定年に収入として反映 |
企業型DCやiDeCoは、老後資金としては合算して確認しつつ、住宅購入や生活防衛資金の判定では分けて考えます。
住宅購入や退職を入れると何が見えるか
住宅購入では、頭金だけでなく、購入時の諸費用、引っ越し、家具・家電、住宅ローン返済、固定資産税、保険、修繕費なども入れます。
退職では、給与がなくなる年だけでなく、退職金、企業年金、公的年金、再雇用後の給与、健康保険料、住民税、退職後の生活費も確認します。
赤字や資産不足が見つかった場合の修正順序
- 入力した数字が現実と合っているか確認する
- 不要な固定費を見直す
- 金利の高い負債の返済計画を確認する
- 大きなライフイベントの金額と時期を調整する
- 退職時期や働き方を見直す
- 無理のない貯蓄・積立額を設定する
- 運用を検討する
最初から高い運用利回りで帳尻を合わせるのではなく、複数の小さな変更を組み合わせます。
作成時にありがちな失敗
額面年収をそのまま使う
税金や社会保険料を差し引いていないため、実際より収入が多く見えます。
毎月の生活費だけを12倍する
税金、旅行、家電、冠婚葬祭などの年払い・臨時支出が抜けます。
借入返済を入れ忘れる
残高だけでなく、毎年の返済額を支出へ反映します。
運用利回りを高く設定する
まず0%または保守的な条件で作り、別のケースとして運用を反映します。
NISAやiDeCoを現預金と同じように扱う
NISAには価格変動があり、iDeCoや企業型DCは原則として一定年齢まで引き出せません。
キャッシュフロー表は毎年更新する
昇給・減給、転職、住宅購入、借入完済、保険の見直し、年金見込額の更新などがあれば見直します。
おすすめは、源泉徴収票を受け取った時期に年1回更新する方法です。その年の収入と貯蓄実績を反映し、予定と実績の差を確認します。
今日できること
今日は、30年分の表を完成させる必要はありません。まず、次の四つだけを書き出してください。
年間支出:____円
現在の金融資産:____円
現在の借入残高:____円
次に、今後10年以内に予定している大きな支出を三つ挙げます。借入れがある場合は、毎月の返済額と完済予定年も確認します。
未来の家計を考えるとき、数字を入れるのは少し怖いものです。見たくなかった不足額が、はっきり表示されることもあります。
ただ、不足が見つかることと、手遅れであることは同じではありません。
今日の数字を一つ入れる。そこから、将来の家計は少しずつ輪郭を持ち始めます。
参照した一次・公式情報
注意書き
本記事は2026年10月7日時点で確認できる日本FP協会の公表情報をもとに、家計のキャッシュフロー表の一般的な作成方法をまとめたものです。本文中の収入、支出、変動率、ライフイベント費用および金融資産残高は仕組みを説明するための架空の試算です。将来の収入、物価、税金、社会保険料、年金額および運用成果を保証するものではありません。住宅購入、借入返済、資産運用などの個別判断は、家計状況や契約条件を確認し、必要に応じて金融機関やファイナンシャル・プランナー等へご相談ください。


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